今回の酒蔵紹介は香取市の「馬場本店酒造」です。

江戸の風情が残る香取市佐原の小野川の近くにある蔵で、大吟醸「海舟散人」は、今年(令和4年)の全国新酒鑑評会でも金賞を受賞しています。

レンガ造りの煙突や蔵の風情あるたたずまいからは、かつて「江戸優り」といわれた佐原の街の繁栄ぶりがしのばれます。

こちらの蔵は、全国の料理店で使われている「最上白味醂」の造り手として知られています。この味醂づくりの始まりは江戸時代。昔ながらの製法を守って作り続けられている逸品です。そば、うなぎなど和食全般からフレンチなどにも使われ、その評価はたいへん高く、深みのある甘さは、料理の味を奥深いものにしてくれます。
蔵元にお話をうかがうと、先代から「味醂の味は絶対に変えるな」と固く言われたそう。その心は広く使われている味醂の味を変えてはいけない、ということだそうで確かにいわれてみれば味醂の味が変われば料理の味も変わるわけで納得の理由ですが、伝統の製法を守るというこだわりが全国の料理店から支持されている理由なのだと感じました。
一方で、日本酒は前の年よりももっと美味しくなるように毎年工夫を重ねていて、切れの良い食中酒を目指しているとお話しいただきました。

馬場本店酒造は、江戸時代の初期にその奈良県から佐原に移って糀屋を開き、やがて日本酒、味醂の醸造を手掛けるようになったそうです。
そのお話をうかがいながらふと思い出したのですが、古くから日本酒造りが盛んだった奈良の興福寺では、1560年ごろには既に「火入れ」が行われていたことが文献から分かっています。微生物界の巨人、フランスのパスツールがワインの低温殺菌法を確立したのが1850-60年ですから、それより実に300年も早いのです。奈良の日本酒の造り手たちは、驚くほど古くから、火入れをすることで雑菌の侵入を防いで発酵をコントロールして、最適な熟成に導く方法を、経験的に確立していたことになりますね。
当時の日本酒造りの先端地だった奈良から移ってきた馬場本店酒造の酒造りですが、現在は、本醸造以上の日本酒は全量瓶火入れして冷蔵保管し、基本的に地元のみで販売しているとのことです。
流通時の温度上昇による影響を抑え、常に安定した品質のお酒を提供したいという思いからとのことですが、その品質へのこだわりをうかがっているうちに、奈良つながりもあって前述の興福寺の火入れのお話を思い出した次第です。

それぞれの銘柄をご紹介させていただくと、蔵のフラッグシップである大吟醸「海舟散人」は、かつてかの勝海舟が蔵元に逗留したことにちなんだ名前とのこと。
代々伝わる銘柄「糀善」には吟醸、本醸造、普通酒があります。
筆者が千葉県酒造組合で、頻繁に買い求めている「すいごうさかり」には純米吟醸と、純米酒、純米原酒があります。
「すいごうさかり」の純米吟醸は、穏やかさが印象的な上質な辛口。純米はしっかりとした味わいで、いずれもいつ飲んでも安定のおいしさです。蔵元からは料理とのペアリングを考えて、香りが前に出すぎないように、というコンセプトと伺っていますが、細身の酒器で味わえばすっきりとしつつも、豊かな香りも感じます。
純米原酒は、よりしっかりとした味わい。アルコール度が高いので、この稿を書いている夏なら、ロックや少し炭酸で割ってもおいしい濃醇なお酒です。
「糀善」は、「すいごうさかり」と共通する旨さもありつつ、いろいろな料理に合わせて、ずっと飲んでいられるお酒です。銚子から佐原、神崎さらには野田、流山と続く利根川の舟運は、これらの土地にお酒や醤油、みりんなどに代表される発酵文化をもたらしました。その水郷の街、佐原で長く愛されてきた「糀善」には、醤油で甘辛く煮付けた煮物や佃煮が良く似合うように思います。

ペアリング

今回は、まず最上白味醂からで鰆の照り焼きです。
味醂多めで甘辛く煮付けてみました。味醂は江戸時代には飲み物としても好まれたそうで、濃厚な旨味があります。(アルコール度数は13度から14度と、お酒と同等です)甘いのが苦手、という方には炭酸割りもお勧めです。食前酒にちょうどいい味わいです。

もう一つのおすすめは鰹です。昨年(令和3年)から豊漁の鰹ですが、戻り鰹だけでなく春先の初鰹もかなりの脂のり。それならいっそマヨネーズとあえてタルタル風にしてみようと思い立ち、レモンと隠し味程度の醤油で味付けしてみました。
どちらもお酒が進むこと間違いなしです。

酒蔵をリノベーションしたレストランで味わう発酵フレンチ(香取市)

佐原商家町ホテルNIPPONIAのレストランLE UN(ルアン)は、発酵フレンチをコンセプトにしていて、地域の食材と千葉のお酒が楽しめます。
以前、別の取材で伺ったお話では、千葉県産の豊かな食材とお酒の醸造する際に生まれる酒粕や麹を調味料として取り入れ、旅の目的になる料理、ここでしか味わえないフレンチを提供しているとのこと。

料理には馬場本店酒造のお酒や最上白味醂も使われていて、味のベースに日本の発酵食があるので、ワインだけでなく日本酒とのペアリングも存分に楽しめます。
筆者がお邪魔した日のおまかせのペアリングでは、大吟醸「海舟散人」もおいしくいただけました。

ディナーのあとに夜の佐原の街並みを歩くと、昼とは違った風情が味わえます。
当たり前ですがNIPPONIAさんはホテルですから、ゆったりと宿泊して旅情をより深めていただければ幸いです。

■馬場本店酒造
 千葉県香取市佐原イ614-1
 TEL:0478-52-2227
 https://babahonten.com

■LE UN(ルアン)
 千葉県香取市佐原イ1708-2 KAGURA棟
 TEL:0120-210-289
(佐原商家町ホテルNIPPONIAホームページ)
 https://www.nipponia-sawara.jp/