今回の酒蔵紹介は一宮町の「稲花」です。

日本酒の味を表現するときに濃醇(のうじゅん)という言葉がしばしば使われます。
総じて旨味が濃いという意味で使われているようで、今回ご紹介する稲花酒造さんのお酒を濃醇と評する向きもあるようですが、個人的に稲花のお酒には幾重にも重なる複雑さを感じるので、単に濃醇や淡麗という言葉だけでは表現し切れない、さらなる奥深さがあると感じています。

稲花の酒造りの特徴は「扁平精米」。この稿の読者にはご存じの方も多いと思いますが、酒造りには、米粒の周りのたんぱく質を削って中心のでんぷん質を使います。この工程を精米といって通常は丸くお米を削りますが、お米の中のでんぷん質は米粒の形に沿って扁平になっているので、丸く削るより扁平に削ることでお米の持つポテンシャルを最大限に引き出すことができる、というのが扁平精米です。
理想的な精米法ではありますが、蔵元にお話を伺うと扁平精米したお米はとにかく繊細で、洗米や浸漬(吸水)には、普通に精米したお米より手間がかかり、たいへん気を遣うそうです。
また、麹の温度管理にも繊細な気配りが必要で、夜は2、3時間おきに起きてコンディションを確認するそう。お話を伺ううちに、この深い味わいは酒造りに対する情熱から引き出されたものなのだと納得しました。
この項を書いている令和4年の春先は、「槽場汲み」といって出来立ての生酒を直に瓶詰した春限定のお酒を買い求めようと、一宮町の蔵までたくさんの方が訪れたそうです。
筆者もこの春、稲花の槽場汲みをたくさん買い求めて飲ませていただきました。

当然のことながら、大吟醸、吟醸、純米吟醸、純米に普通酒とラインナップは豊富ですが、この項の建前として1,500円前後のお酒をご紹介することとさせていただいており、3種類を選ばせていただきました。
左から「特別純米 絆」、中央はインパクトのあるラベルの「1787~炎(イナハナ ホムラ)~」、そして「上総の国 一の宮 純米吟醸」です。
「絆」は、しっかりとした味わい。ラベルにある通り熟成の旨味を感じ、日本酒好きが好むお酒ではあるのですが、ぬる燗にすると表情が一変します。口に含んでほんのり温かいくらいに燗をするとやわらかな表情になり、より一層広がる旨味が酸味とともに肴との調和を生み出してくれます。
「炎」は、旨味、コクを感じるという感想とともに、とてもユニークな複雑さを感じます。この複雑さは、いわゆる味の四面体、甘味、塩味、酸味、苦味に、さらに旨味を足した5つの基本の味も属さない、発酵の奥深い世界から生まれた味なのだと思います。

ペアリング

今回、蔵元おすすめの肉料理に合わせてみたのは純米吟醸「一の宮」です。

正確を期すと蔵元のおすすめの料理は豚の角煮ですが、今回は千葉のブランド豚、マーガレットポークのスペアリブをオイスターソース煮にしてみました。
無濾過にこだわる酒造りゆえか、写真を撮る間にも豊かなお酒の香りが満ちてきます。
一口含むと自然な甘みを感じますが、ほろほろに煮たスペアリブを食べてからお酒をいただくと、お酒はきりっとした味に変わり、肉の脂はさらっと感じ、この素晴らしいペアリングに思わずお酒もお肉も進みました。
今回ご紹介した稲花酒造のお酒にはいずれももろみの旨さがあります。手間暇を惜しまず、愛情を注いだもろみは、使った米の品種や造りの違いを越えて共通する旨さを作り出しているように感じました。発酵の奥深さを感じる銘酒です。

千葉の地酒を買う 「小田商店」(千葉市若葉区)

こちらのお店は、全国の蔵を回っておいしいと感じたお酒を仕入れているとのこと。
鍋島や豊盃など名の知られたお酒から、比較的小さい蔵のお酒、希少な焼酎や話題のウイスキーなどとともに今回ご紹介した稲花のお酒も並びます。

こちらのお店では、写真にもありますがさまざま器が並びます。
お酒と料理のペアリングももちろんですが、お酒と器の相性もいろいろ試すと楽しいものです。備前焼や信楽焼、唐津焼などの作家さんの一点物の焼き物にはたいへん心をひかれました。

こちらのお店は、何といってもこの冷蔵庫の充実ぶりにワクワクさせられます。全国の銘酒から目利きしたお酒が並びますが、以前、この稿でご紹介した県内の酒蔵のお酒も並んでいます。

お店の一角には器のためのスペースまであり、酒器ばかりでなく土鍋まで扱っているそうなので、お酒と料理の好きな方には特におすすめです。
もちろん、質問すれば選んだお酒に合う酒器も気さくに教えていただけます。

■稲花酒造
 〒299-4303 千葉県長生郡一宮町東浪見5841
 TEL:0475-42-3134
 https://inahana.co.jp/

■小田商店
 〒264-0003 千葉県千葉市若葉区千城台南4-4-1
 TEL:043-237-8289